穴埋め小説『山田さんと僕―第三回―』

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    〜山田さんと僕のパワースポット〜

    すると、山田さんは突然老婆を解放した。その理由は、山田さんが自らの行いを反省したわけではなく、目の前に秘宝体験コーナーなるものを見つけたからだった。
    「ねぇ、これ見てよ。何か体験できるんだって! えっと、スピリチュアルパワーを充電して、明日の活力にって書いてある。そうだ、君、充電しなよ。疲れてるんでしょ?」
    山田さんが何を根拠にそう言ったのかわからないが、自信満々にそう言い切られたので、僕はたじろいでしまった。
    「え? 別に僕、疲れてないよ?」
    山田さんは幼子に言い聞かせるような仕草で、人差し指を振って見せた。
    「いいえ、自分で気づいてないだけで、きっと疲れてるんだよ。だって君、いつもリア充の人たちを恨めしそうに睨んでるじゃない」
    「そ、そんなことないよ!」
    「リア充の間で”千枚通し”ってあだ名付けられてるかもしれないよ?」
    「なんで? 穴が開くほど見てるから?」
    「そうそうそう」
    山田さんは、おざなりに返事をするだけで、決して「冗談だよ」とは言ってくれなかったので、僕は観念して、山田さんに従うことにした。
    「・・・・・・じゃあ、ちょっとやってみようかな」
    山田さんは、体験コーナーに掲示されたパネルの説明を読み出した。声に出して。
    「えっとね、まず最初に、手前にある焼きごてを持ちます――」
    「取っ手だよ」
    「あっ・・・・・・と、取っ手を持ちます」
    僕は説明に従って、取っ手の付いた張り型を持ち挙げた。密度が高いのか、ずしりと重い。形はどことなく溲(し)瓶(びん)に似ている。
    山田さんはチラリと僕を見やってから、続けた。
    「次に、空気中に漂うスピリチュアルパワーをすくい取るように、旋回させます」
    僕は、誕生日に飛行機のおもちゃをもらった子どものように、溲瓶を中空に旋回させた。
    「上手くパワーをすくい取ることができるかな? 長く続けると、徐々に色濃くなっていきますってさ――」
    僕は耳を疑った。
    「え? 嘘でしょ? 色なんて変わるはずないよ」
    「でも、本当に書いてあるんだよ? あ、でも小さく注意が書いてあるな。えっと何々? ”不安の様相も色濃くなっていきます”だって!」
    「そうだね。もうなんかすごい不安だもん」
    「あ、あたしも急に不安になってきた・・・・・・家出る時、財布の紐閉め忘れたかも!」
    「ガスの元栓みたいに言わないでいいよ。財布の紐はいつでも締めれるからさ」
    「それもそうだね。頸動脈だっていつでも絞めれるもんね。あ、そろそろお茶しない? あっちにカフェが併設されてるみたいだよ? あたしね、水よりお茶が好きなの――あ、でもお金の方が好きかも」
    「そ、そうなんだ・・・・・・お金か。でも、パワースポットはもういいの?」
    「うん。ココ、なんか胡散臭いし」
    「胡散臭いって言っちゃった!」
    「自分を騙し騙しここまで来たけど、もう無理。限界。あのババァ許さない」
    「ちょ、ちょっとそれは言い過ぎだよ」
    「ごめん、素が出ちゃった。もう一度被るね化けの皮」
    「いや、もう遅いんじゃない? あと、被るなら猫の方が可愛くて良いと思うよ?」
    すると、山田さんは困惑気味に答えた。
    「――あたし、犬派だから・・・・・・」
    「おっけ! もうなんでも良いよ」
    僕は山田さんの全てを許すことにした。山田さんはすぐに明るい表情に戻り、むしろテンションが上がったのか、軽くシャドーボクシングをしながら言った。
    「じゃあ、お土産でも買って帰ろう。それでウィンウィンでしょ? そうでしょ?」
    山田さんの拳が僕の眼前で寸止めされた。気圧された僕は小さく何度も頷く。僕だけが損をしているような気もしたが、よくよく考えてみると、憧れの山田さんと一緒にいられるのだから、僕は大勝利しているのだ。さらには、寸止めにより起こった山田さんの手の香りが僕の鼻先をくすぐって、それがとても心地よかったので、さらにボーナスまで付いたことになる。
    僕たちは洞窟を出て、掘っ立て小屋へと戻った。そこに、小さなお土産コーナーがある。
    「お土産って何買うの?」
    山田さんは、フックにつり下げられたキーホルダーの束に腕を突っ込む遊びをしながら答えた。
    「せっかく来たんだから、記念にお揃いのもの買おうよ」
    「お、お揃いの? じゃあ、僕が出すよ。プレゼントするからさ」
    「本当に? 嬉しい! 前から西欧家具が欲しいと思ってたんだ! たぶん二百万くらいするけど大丈夫?」
    「・・・・・・あの、ここにあるお土産の中から選んでもらえる?」
    「あ、そうだよね。ごめん、あたし男の子にプレゼントとか貰うの初めてだから勘違いしちゃった」
    プレゼントに二百万の西欧家具をおねだりする山田さんに、少し恐怖を覚えたのは言うまでもない。
    「見てみて、これってペアになってるんだって! ほら、鍵と鍵穴みたいにはまるようになってるの!」
    山田さんの説明を聞いて、僕は嫌な予感がした。見てみると、やはり張り型とイヤラシ貝のキーホルダーだ。それぞれ、別の商品になっていて、色などを選べるようになっている。
    「これって、なんかイヤラシいよね」
    山田さんが突然耳打ちしてきたので、驚いて僕は体を硬直させた。
    「・・・・・・え? な、何が?」
    「だって、二つ買わなきゃペアにならないんでしょ? 商魂って言うの? こういうの」
    僕はほっと胸をなで下ろした。
    「あ、そっちね。商売だから仕方ないんじゃない? それに色だって好きなの選べるわけだし」
    「じゃあ、この薄ピンクの貝にしようかな、カワイイし。君はこれにしなよ」
    山田さんが差し出した、小さな張り型の付いたキーホルダーを見て、僕は思わず咳き込んでしまった。
    「う、うん。じゃあ、僕がプレゼントするよ」
    「ありがとう! 嬉しいな! 墓まで持って行くね!」
    「山田さん、『一生大切にする』と『墓まで持って行く』では意味が違うよ?」
    「そう? 肌身離さずって意味では同じでしょ?」
    「ま、まぁね・・・・・・」
    山田さんは確信犯なのか、ただの阿呆なのか、時々わからなくなる。
    老婆に代金を払うと、僕たちは掘っ立て小屋を後にした。
    外に出ると、まだ昼前だという事に僕は驚いた。外に出るともう夕方で”時間が過ぎる早さに驚いた”となるシーンだが、むしろ時間が余って困った。
    買ったばかりのキーホルダーを眺める山田さんの表情に、ふと影がよぎった――ように見えた。
    「ねぇ、これ私たちがいつか再会するときのにしましょ?」
    「いや、明後日には学校で会うと思うけど?」
    今日が土曜日だから、何もなければ明後日月曜には顔を合わせるはずだ。
    「そっか、君知らないんだ・・・・・・」
    「――え?」
    「あたしね――明日、引っ越すの」
    「そんな! 急に?」
    「急じゃないよ。ずっと前から決まってたの。でも、誰にも言ってないんだ。言う必要がないって、お父さんが――」
    頭の中が真っ白になった。

    ――続く。

    穴埋め小説『山田さんと僕―第二回―』

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      〜山田さんと僕のパワースポット◆

      山田さんは、掘っ立て小屋でももらったパンフレットを見ながら、部屋の中を見渡して言った。
      「ねぇ、この究極秘宝ってどれかな?」
      僕も同じパンフレットを貰っていたが、わざと山田さんの持つパンフレットを覗き込んだ。山田さんの髪から発せられた良い香りが、鼻先をくすぐったので、僕はその匂いを後で調べて、同じコンディショナーを使おうと決めたのだった。
      「えっと、次の部屋じゃないかな? なんかそれぞれの部屋でジャンルが決まってるみたいだね。ほら、ここは『張り型の間』って書いてある。それは『イヤラシ貝の間』にあるみたいだね」
      「すごいね! パンフレット、読めるんだ? あたし、こういうの読むのすごい苦手なんだよね、地図とか明日の天気とか」
      「まぁ、天気は天気予報士に任せておけばいいと思うよ? それに・・・・・・地図だったら、いつでも僕が読んであげるからさ・・・・・・」
      僕が照れながら言った言葉は、残念ながら山田さんには届かなかった。何故なら、山田さんはダッシュで次の部屋に向かったからだ。
      「あったよ! イヤラシ貝からも汁出てる!」
      「その汁を瓶に詰めて帰ったらいいんじゃない? 運気上がるかもよ?」
      僕は冗談交じりに言ったのだが、山田さんはしばらく真剣な表情で考えてから、少し残念そうに「やめとくか」と呟いた。
      「そのさ、イヤラシ貝って結局何なんだろうね?」
      僕は何気なく言ったつもりが、山田さんは急に顔を赤らめて、うつむいてしまった。さっきの張り型はわからなかったが、今度はさすがに感づいたのだろうか。そして、僕は少し反省したのだった。
      山田さんは、チラリとこちらを上目遣いに見て細い声で言った。
      「か、鍵穴とかじゃないかな? 古代の」
      僕は思わず吹き出してしまった。別に山田さんが言い繕う必要はない。それにしても古代の鍵穴ってなんだろうか。僕は、山田さんに恥をかかせてはいけないと思い、強引に話を合わせた。
      「そうだね、鍵穴って昔からあるから」
      そこで、話題を打ち切れば良かったのに、山田さんは、何故か自ら掘った墓穴のさらに奥へと進むのだった。
      「うんそうだよね、汁も、汁もきっと出てたよね――」
      「そうだね・・・・・・汁・・・・・・か・・・・・・汁はどうかな」
      山田さんは自分で掘った墓の奥で、自ら土を被るのだった。
      僕は無意識のうちに、山田さんの下半身を想像してしまった。
      それに気づいたのか気づいていないのか、山田さんは目を泳がせながら口を開く。
      「――それより、昨日の小テストどうだった? あたし一問間違えちゃった。引っかけ問題だと思ったんだけど、答えって案外シンプルなところにあるものなのかも知れないなって思ったんだ――好きです」
      「へ? 何が? 秘宝が?」
      「違うよ君が好き」
      「黄身? なんで急に玉子の話?」
      「えっと・・・・・・つまり、みんなさ、本当のあたしを見てないんだよね。なんていうかそういうキャラなんだ。だからあたしはそれを演じてるだけ。全然リアルじゃなくて――生きてる感じもしなくて――ただ、自分に正直にいたいって・・・・・・そう思うだけなのに」
      「僕の前では、楽にしてくれて良いよ。なんて言うか、僕はどんな山田さんだって――え? ちょっと何してんの?」
      「楽にしてやろうと思って――」
      気が付くと、山田さんは老婆にチョークスリーパーをかけていた。親指の付け根で頸動脈を絞める、本気のやつだ。
      「ダメだよ、それお婆さんでしょ? 本人の承諾なしに楽にしちゃだめだよ」
      「そ、そうだよね・・・・・・安楽死って日本では認められてないもんね。ごめん勘違いしちゃった。言葉って難しいよね。上手く伝わらないと、とんだ誤解を生むんだよね。そうそう、こないだね、バイト先で汚れても良い格好して来てくださいって言われて、全裸で来た人がいたんだ。そりゃ、汚れても風呂入れば良いだろうけどさ、服は着て欲しいよね。でもね、その人それを指摘されてこう言ったんだ、”僕はもう汚れてますから大丈夫です”って、いやいや、知らねぇよって小声で言っちゃったよ思わず。で、何の話だっけ? 猫の肉球が臭いって話だっけ?」
      「違うよ。とりあえず、お婆さんを解放してあげてよ。そのままじゃ、本当に肉体から魂が解放されちゃうからさ」
      「上手いこと言うね。君、講談師とか目指せるんじゃない? 渋谷とか行きなよ。スカウトされるよきっと」
      「そ、そうかな? いやいや、そんなことは良いから、早く離してあげなよ」
      「うん・・・・・・ちょっと間ってね、今覚悟決めるから」
      「覚悟?」
      「そう、世の中キャッチ・アンド・リリースって言うけどさ、これって結構勇気がいるんだね。やっぱり、一度手に入れたものはなかなか手放せないのが人間というものなのかもしれないね」
      「いや、山田さんは手に入れてないから。お婆さんの魂はお婆さんのものだから」
      「ごめん、あたし自分のこと勘違いしてた、神様と」
      「どんな勘違いだよ!」
      すると、老婆が擦れた声で言った。
      「――あなたは、神様です」
      何故、老婆が山田さんの大いなる勘違いを肯定したのかはわからなかった。単に苦しかったからかもしれない。

      ――続く。

      穴埋め小説『山田さんと僕―第一回―』

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        「山田さんと僕」

        〜山田さんと僕のパワースポット 


        「せっかくの休みなのに、ごめんね。あたしの趣味に付き合わせちゃって・・・・・・」
        「いや、僕もパワースポットってのに興味あったから――うん、一度来てみたかったんだ、こういうとこ・・・・・・」
        僕は必死で笑顔を作った。顔に力を込めていないと、口の端が、自然と引きつってしまう。嬉しそうに無邪気な笑みを浮かべる山田さんにそれを悟られる訳にはいかなかった。
        数日前、クラスメートの山田さんから突然の誘いがあった時は、それはもう天にも昇る気持ちだった。山田さんは、容姿端麗、文武両道の才色兼備でクラスの人気者。そして、彼女は僕の憧れの人だ。
        「えっとココ、秘宝館・・・・・・って書いてあるけど?」
        「うん。なんかね、ここ隠れたパワースポットなんだって!」
        「そ、そうなんだ? パワースポットって山とか神社のイメージが強かったな」
        「そうだよね! あたしもびっくりだよ。こんな近場にあるなんてね。なんでも、ココに納められている秘宝がとんでもないパワーと放ってるって巷(ネツト)では噂なんだ!」
        「そっか・・・・・・」
        僕はいわゆるステルスマーケティングを疑ったが、山田さんに嫌われるのが怖くて、口には出せなかった。
        「さ、入りましょ。あの掘っ立て小屋が受け付けみたいよ」
        憧れの山田さんが発した、『掘っ立て小屋』という言葉がミスマッチで、僕は妙な興奮を覚えた。
        国道沿いに佇む掘っ立て小屋に、僕たちは歩みを進める。立て付けの悪い引き戸を引くと、老婆が姿を現わした。
        「いらっしゃい。五百円ね」
        山田さんは、可愛い小銭入れをカバンから取り出して五百円を老婆に渡した。ガマグチの小銭入れに、山田さんの細い指が出たり入ったりしているのを見ながら、僕はポケットから五百円を取り出し老婆に渡した。
        「毎度。はい、これ瓶ね」
        老婆は小瓶を二つ、僕たちに差し出した。
        「あの、これは?」
        「もうね、秘宝館の中はパワーで満ちあふれているから! だからその瓶にね、詰めて帰って欲しいの。それを部屋の四隅置くと、運気が上がるのよ!」
        老婆は平然とそう言い放ったが、四隅に奥には数が足りない。また来い、ということだろうか。そして何より、その小瓶はよくよく見ると、ラベルの一部が剥がしきれていないジャムの空き瓶だった。
        僕たちはお婆さんに案内されて、掘っ立て小屋の裏にある階段を降りた。薄暗くて湿っぽい、洞窟のような所だった。
        「ココはね、天然の洞窟を利用しているんだよ。そもそも、洞窟にはパワーが溜まりやすいんですよ?」
        「そうなんだ? 僕はまだそのパワーっての感じないんだけど・・・・・・」
        「そんなことないよ。ほら、その瓶を見て! もう、うっすら黄みがかってるでしょ? きっとパワーを溜め始めているのよ!」
        確かに小瓶は、うっすらと黄みがかって見えた――天井からつり下げられた裸電球の光で。
        すると、横で老婆が頷いた。
        「――そうなんですよ」
        何故か山田さんの勘違いに、老婆が強引に乗っかる形になった。
        しばらく進むと、急に天井が高くなり、少し開けた空間に出た。相変わらず天井には裸電球でしかなかったが、壁際に並べられたショーケースから煌々と白い光が放たれていて、部屋全体を照らしている。そこには、所狭しと何かが陳列されているのだった。
        山田さんは何かを見つけたのか、急に走り出した。
        「ねぇ、これ見て、すごいパワー放ってない?」
        山田さんの視線の先には、木でできた張り型が飾られている。張り型――つまり、男根を象った棒である。山田さんは、それが何なのか知っているのだろうか。
        「ほら見て、先からなんか垂れてるよ! 奇跡じゃない?」
        木の張り型の先から液体が染み出しているなんて、どう考えても不気味なのだが、山田さんが目を輝かせているので良しとした。
        「それって、何に使うものなんだろうね?」
        「なんだろう? ドアノブとかじゃない?」
        山田さんは特に気に留めず、軽い感じでそう言った。僕は、山田さんの部屋のドアノブを張り型にしてぇと一瞬だけ思った。
        ふと老婆のことが気になって振り返ると、老婆は部屋の隅を掃除していた。

        ――続く。

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